「僧正の積木唄」(山田正紀)

 中盤までイライラしながら読んだ。
 解説文で法月氏も書いているように、ヴァンスも金田一も無能さにおいて甲乙つけがたい探偵である。しかるにヴァンスはぼろくそにこきおろされ、金田一は活躍するこの扱いの差はどういうことか? ヴァンスは地の文で莫迦にされるだけでなく、マーカムにまで道化あつかいされるのである。私の記憶では、とりわけ後期の作品においてはヴァンスとヒースがマーカムの愚かな言動に抗して捜査してゆく感じではなかったか。
 でも後半からクライマックスにいたるプロセスにそんな不満もふっとんだ。これはみごとな本格ミステリである。山田氏のミステリをすべて読んだわけではないが、たぶんこれがベストでしょう。面白くなってからが短すぎるとは思うのだけども。
 まあ結局、作者が金田一が好きでヴァンスをきらいであるということなんだろうなあ。私は名探偵の要件として、奇矯なふるまいで刑事たちをとまどわせたり、ペダントリーをひけらかすことが推理・捜査能力よりも重要だと思っている。その意味ではヴァンスや法水麟太郎はまさしく名探偵で、金田一はやや劣る。が、これこそ個人的な嗜好の問題なのでしかたないですね。