「カーテンの陰の死」(ポール・アルテ)

 アルテのどこがすごいのかと常に思いつつ、それでも読んでしまう。思うに、アルテで騒いでいるのは読むものを読みつくしたすれっからしの読者なのであろう。私などはクイーンやカーの未読作品がたくさんあり、それらは新作として私の前にあらわれるわけで、すなわち私はいまだ本格ミステリの黄金時代にいるようなものである。ならばアルテごときと思うのも自然というものです。
 そもそも、「第四の扉」についてはおぼろげな記憶があるけれど、他の作品については何もおぼえてない。というわけで昔のメモを読んでみる。こうして後から読んでなに莫迦なこと書いてるんだと嗤うためにメモをのこしているようなものですからね。
 第四の扉、『全体に悪くない(略)絶讃するような作品ではないが』
 死が招く、『不出来とは思わないが、トリックが秀でているわけでもないし、キャラクタやドラマは薄っぺらだし、フーダニットとしては落第』
 赤い霧、『前二作より面白い(略)面白いのは前半(略)第二部にはいったらみえみえの展開になって』
 内容を思いだすよすがになるようなことは何も書いてないのは困ったものですが、どれも満足いく出来ではなかったことはかろうじて窺えます。
 で本作品はどうかといえば、不可能状況はとても魅力的で、アルテもついにやったかと思わせました。が、トリックがトリックともいえない代物でがっかり(思いつきをきちっと作品に昇華しえないあたり、「赤い霧」と通底する?)。シンプルなトリックはむしろ好きなほうですが、これはダメでしょ。ふつうの探偵なら最初の捜査で思いつく類のネタです。私は読んでて考えもしなかったけど。それに、ツイストにせよ、ハーストにせよ、もっと魅力的に描けそうなものです。ハーストが詩を詠じるあたり惜しいと思いました。あと、あからさまに怪しげな人物がでてきて、これは犯人ではありえないとすぐに思ってしまうのですが、この藝の無さ、ミスディレクションの拙さはいったいどう考えたものか。最後のおまけ展開もヒントが出ていないのでは蛇足にすぎないと言うほかない。