「フランドルの呪画」(アルトゥーロ・ペレス・レベルテ)

 端的にいえば不出来な作品である。ミステリとしての面白さが弱いし、この手のミステリにあるようなペダントリーの楽しさもない。そもそも、タイトルから推測されるような絵についてのミステリではないのであって、そこがそもそも詐欺のようである。いえ、一応は絵画の謎も冒頭あらわれるのですが、すぐに解決(?)されてしまい、そのあとチェスがらみの現実の殺人事件が展開されるわけです。で、この殺人と絵の謎がほとんど関係ない。これはないでしょう。
 登場人物も、修復すべき絵の前でタバコをすうヒロインを含めて魅力に乏しい。探偵役はやや面白いけれど出番がすくなく、どうも読み進めるのに苦労しました。ただひとつ印象的だったのはエピグラフにレイモンド・スマリヤンの文章がつかわれていること(ホフスタッターまで引用している。バッハやらエッシャーやらまで出てきて、ちとホフスタッターに毒されすぎ)。つい先日スマリヤンの自伝を読んだばかりだったので奇妙な偶然だと思いましたよ。