「壺中の天国」(倉知淳)

 麻耶作品二冊を読んで私のなかで本格ものを読む気運がたかまってきました。
 でも、性善説などという言葉で形容されることの多いこの作家がなぜ、こんな小説を。よく考えてみると悪人らしき人は出てこないのですが、かくも病んだひとばかりが登場するのを読んでいて気分がよいとはいいかねる。私は小説を書いたことも、書こうという気になったこともないけれど、こんなひとについて調べて、書いて、楽しいんですかねえ。
 探偵のたたずまいも、謎解きのサスペンスも悪くない。でも、もっとも緊迫したのが主人公の父親がケガをして病院に向かうところだったのはミステリとしてはどうなんでしょうね。