「ストップ・プレス」(マイクル・イネス)

 アプルビイの捜査はいきあたりばったりで、読んでてイライラする。魅力的な謎である。作家が発表もしていない小説の構想を利用した事件。となればまづ、構想のメモとか、誰かに相談したとか、そんなところからアイディアがもれたと考える。そんな真相ではつまらないが、最初にそのへんをつぶすのは常套であろう。が、アプルビイがそれをたしかめたのは物語が2/3を過ぎたころであった。「ハムレット復讐せよ」でもそんな不満をいだいた記憶がある。森さんは絶讃してるそうだが。
 だがそれよりも困惑するのは、小説全体をおおう混乱である。叙述がへんにあやふやというか、渾沌としているのだ。謎めかしているというよりも、統禦できてない感じ。より明確にいえば、イネスは阿呆なんぢゃないかと思える。とはいえ、わたくしにも謙虚さのひとかけらくらいはある。わたくし自身の理解力に問題があるのではないか、という解釈もあることは承知しておりますが。とりあえずは、精神分裂と多重人格を混同しているなどと重箱のすみをつついておきますか。