ギャンブラー
 學生のころ、一度この小説を讀みかけたことがある。試驗前のあるとき、ふと手にとり讀みだしたらおもしろくて止められなくなつた。このままだと破滅すると思ひ、なんとか讀むのをやめたのである。それから幾星霜、やうやく讀破できたもののあのころのやうな吸引力は感じなかつた。やはり破滅してでもあのとき讀んでおくべきであつた。
 いや待てよ。試驗前に讀む本はどれもおもしろかつた氣がするな。空腹が料理の最高の調味料であるやうに、試驗こそ讀書の最強のスパイスなのかもしれぬ。つまり試驗前といふ状況につねに身をおくことにより、本を最大限にたのしめるやうにするのだ。こ、これは天才的な發見ですよ。

 

ギャンブラー (1981年) (Hayakawa novels)

ギャンブラー (1981年) (Hayakawa novels)