「風の影(上)」(カルロス・ルイス・サフォン)

 「背教者ユリアヌス」はローマ皇帝の物語なのに本を読む話であった。それに対しこちらは本をめぐる話ではあっても本を読む話ではない。というか、本をめぐる話ですらない。「風の影」なる小説の作者についての物語であり、その「風の影」なる小説がいっこうに魅力的ではなく、そもそも内容がさっぱり紹介されないのだが、それではその作者について興味をいだけようか。いやもちろん、すべての小説が本をめぐる話である必要はなく、この小説も当然そうなのであるが、“忘れられた本の墓場”などのギミックがそれを期待させるのですよ。とまれここまでについて評価するならば、そこそこ読める、といったところであり下巻において盛り返してくれることを期待します。