「背教者ユリアヌス(上)」(辻邦生)

 以前に数ページ読んで挫折したのはなんだったのか。すらすら読めるぢゃないか。てなことはともかく、ひとことで申せば幼いユリアヌスがかわいい。もうひとこと加えるならば、これは本を読む話である。
 とは何ぞ。読書小説とでもいえばいいのか、主人公が本を読み、かつそれがストーリーの核となっている物語のことである。なるべくならば一冊の本よりも体系的な読書がのぞましい。といって、このジャンルの作品でぱっと思いつくのは「旅のラゴス」くらいだし、わたくしが読んだことのある本を読む話はことによればその二冊きりなのかもしれない。それでもこのジャンルは現前する。ユリアヌスがグレゴリウスの書庫におもむくシーンを読めばそうとしか思えない。ま、中巻下巻でどうなるか知りませんがね。