「腰ぬけ連盟」(レックス・スタウト)

 「聖域の殺戮」はかならずしも満足のいく出来ではなかったが、ミステリの愉しみを再認識することができた。そこでもう一冊読んでみた。スタウトはずっと昔に「料理長が多すぎる」を読んだきりだけれど、あまりおもしろくなかった気がする。ほとんど何も記憶にないというのが正確でしょうか。だけど、こちらは楽しめた。事件そのものは一風かわった奇妙なものだが、誰が何故どうやってというような謎はない。その分ウルフが謎である。アーチーから見てウルフの言動は理解できない。やらなければならないことはやらず、わけのわからないことに関心をもつ。そうした探偵はミステリに多く存在するが、それはつまり謎の物語であるミステリに謎を補給しているのですね。そして探偵という謎をおどろきいぶかるためにワトスン役が存在するわけだ。とまあ、それくらいウルフは魅力的である。訳文は少々古くさいか。