「アラビアン・ナイト(12)」

 海のシンドバードと陸のシンドバードとの物語。ついにシンドバードの海洋冒険譚でありますが、なぜかシンドバードがふたりいる。海のほうは冒険の主人公ですが、陸のほうはその話の聞き手でしかなかったりします。これが同名である必然性はなにもないのですが、とにかくアラビアン・ナイトは登場人物Aが登場人物Bに語るという形式に取り憑かれているのです。ストーリーは他の話からとびぬけて面白いというわけでもないが、印象的だったのは第四航海でシンドバードが何のためらいもなく女を殺すところですな。穴から脱出したあとも食物をうばうためだけに殺人をつづけるこの男はおそろしいヤツだ。
 黄銅城の物語。幻想味のある旅行譚だが、お説教が多いのが難。無常をうったえる詩にしても、もうちょいルバイヤートっぽければよかったのに。城壁から中をのぞいた男たちが、哄笑してから飛び降りて死んでゆくところは戦慄のシーンといえましょう。
 女たちのずるさとたくらみの物語。短い話をアラビアン・ナイト的につないだ、というか入れ子にした話。次巻につづいている。