「アラビアン・ナイト(11)」

 ひさびさの長篇もあり、短篇もあり。短篇のほうはお説教くさいものばかりで面白くない。訳者あとがきによるとスーフィズムを題材にしているというが、さっぱり気がつきませんでしたな。そして長篇「蛇の女王の物語」は、そのなかで「ブルーキーヤーの話」が語られ、さらにそのなかで「ジャーン・シャーの話」が語られるという、いかにもアラビアン・ナイト的な入れ子構造になっております。
 蛇の女王の話。挿話のほうが圧倒的にヴォリュームがあって、これ自体はそれほど長い話ではない。くちなわの女王がいくらなんでもかわいそうではあるまいか。「頭をあげて、大空を仰ぐと、七重の天とその中にある万象が、高ききわみにあるシドラの木まで見えました」に続くくだりにはしびれる。海難をくぐりぬけた五葉の紙片はいったいどんな伏線になっているのかと思えば、なんでもないのがなんともかんとも。挿話もふくめてファンタスティックで興味深い。
 ブルーキーヤーの話。アラビアン・オデュッセイアという按配。もっとも、このひとは海を歩いてわたっていくのです。アダム追放のときにエデンからわたってきた四枚の木の葉の話が面白い。「一枚は匐う虫に食われて絹になりました。二番目はカモシカどもが食べたため麝香になりました」てな感じ。
 ジャーン・シャーの話。こちらはとほうもない陸の旅。そして羽衣伝説でもあります。猿が身振りだけで「この土地はわしらの君ダビデの御子ソロモンさまのお持ちものでございます云々」と伝えるのが可笑しい。