「象は世界最大の昆虫である ガレッティ先生失言録」
ガレッティは1750年うまれのドイツのギムナジウムの先生。このひとがタイトルにあるやうな失言をやたらとしたのださうで、生徒がそれをまとめて本にした。それがいまにつたはり、「ガレッティ」は失言の同義語になつたとか。
見てゆくと、どうも單なる失言ばかりとはいひがたいものが多い。算術が致命的につたないのはまあいいとして、時系列の順に事象をとらへられないたぐひのものは、腦に障礙でもあつたんぢやないかと思はせる。「アルキタスは死んだ。ただし、死後いかほど生きたのか、つまびらかにしないのである」なんて、どうまちがへればいへるのか。「詩人オヴィディウスとヴェルギリウスの友であるガルスは、衆人注視のまっただなかで殺された。のみならず、このガルスにはおなじ悲運が、いま一度、刺客の手によって加えられたのであった」とか、さういふのがいくつもある。
ほかに、いくらなんでもこれはジョークだらうといふもの。「ナイル川は海さえも水びたしにする」とか。
カテゴリの混亂。タイトル類似の「鉱物のなかで最大の獣が象だ」とか「動物もまた実在する人物である」とか。
トートロジー。「黒々とした森に棲む黒色の獣は黒い」とか「一文も持たない者は無一文である」とか。
「私にとって不快なことが、どうして私に出会いたがるのか、さっぱりわからない」や「歌うときには口を開かなくてはならない」などには含蓄があるやうにも思はれもしますね。
もつと適切な例があるはずだけれど、さがすのが面倒なのでやめておく。
- 作者: 池内紀
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