「ゼンダ城の虜」(アンソニー・ホープ)
ずいぶん厚い小説だと思えば、半分は続篇「ヘンツオ伯爵」であった。主人公はルリタニア王とうりふたつであり、誘拐された王の身代わりをするハメになる。きわどい綱わたりのすえ、王を奪回して終了。王のふりをするあたりはおもしろいが、奪回作戦はいまいち。チャンバラがさえない。ハミルトンの「スターキング」はコレを換骨奪胎したものだったのかな。
続篇のほうは後日談。主人公は王のふりをしている間に王の婚約者とデキてしまう。婚約者は前作の事件ののち王と結婚して王妃となるが、主人公とは手紙のやりとりをしており、その手紙をぬすまれるところから話ははじまる。手紙をとりもどすプロセスのなかで王が敵に殺害されてしまう。これは完全に主人公と王妃がまいたタネであり、読者はもう主人公に同情できなくなる。その後、敵をたおしてから王のふりをしつづけるか、国にかえるか究極の選択を強いられる主人公。このへんの迫力はいい。が、結末は苦しまぎれっぽい。王妃の行動は常軌を逸してるし、登場人物はみな倫理観をうたがわせる人間ばかりですねえ。