コヘレトの言葉

 舊約をここまで讀んでいちばんおもしろかつたのは「創世記」で、次點がこれかな。「ヨブ記」は期待したほどではなかつた。「創世記」のおもしろさは狂つた文章とわけのわからぬまま抛りだされる感じにあり、それはふたつの文書をむりやり接いだところからきてゐる。いはば偶然の産物なのだが、おもしろければなんでもよい。
 「コヘレトの言葉」のおもしろさは逆で、わかりやすさ、實感へのつながりやすさにある。鬱なひとの書いた文章のやうに見えるけれど、そもそもたのしいひと、しあはせなひとは文章など書かないのかもしれない。譯文はどうなのかな。さまでひどいとは思はないにしても文語譯の「空の空なるかな」てのもいちど讀んでみたい。