「蜘蛛の巣(上下)」(ピーター・トレメイン)

 ミステリとしてはとるにたりない作品。ムダに多くひとが死ぬし、過度に怨恨関係が複雑で謎ときをしてもすっきりしない。ただ、舞台である7世紀のアイルランド社会がとても魅力的でおもしろい読物にはなっている。当時のアイルランドは女性の地位がたかく、主人公も上級の辯護士であり裁判官なのである。しかも、ホラティウスアリストテレスを引用するわ、乗馬が得意だわ、徒手挌闘術の達人だったりする。ローマ教会とは一風かわったアイルランド教会も興味深いし、障碍者を嘲笑してはならないといった刑罰のある法制度もおもしろい。小説的誇張も無論あるでしょうが、アイルランドは魅力的である。