「忠臣藏とは何か」(丸谷才一)
‘蔵’の正字をさがすのに往生した。忠臣藏事件はテロリズム以前の乱暴であって、赤穂浪士は単なる殺人集団である。江戸城に討ち入るならまだしも、刃傷沙汰の被害者を殺すなんて辯護の余地がない。けれども、この本の示唆するところ、御霊信仰による魂鎮めと考えると、怨霊がなしとげられなかったことを完遂せざるをえなかった浪士に多少の同情を感じないでもない。吉良にとっては災難だし、そもそもあんな風に殺された吉良は怨霊にならないのだろうか。とまれ、読物としてはとてもおもしろいし、さすがにカーニヴァルとむすびつけるところには無理を感じるけれども、他の部分はそれなりに説得力もある。曽我ものの上演が徳川将軍の呪殺を(無意識な)目的としたものであったなんてくだりは、京極さんのミステリの謎解きを読むようでありました。事件としての忠臣藏よりも物語としての忠臣藏に重心がおかれすぎているとは思ったが、そもそも文藝評論として書かれたものだからしかたないですね。