「日本の歴史5 王朝の貴族」(土田直鎮)

 平安貴族にはすでにうんざりであるが、この本自体はおもしろい。全体のバランスとか、語り口とか、シロートむけの啓蒙書としてみごとであります。しかし摂関政治などといいながら、政治不在というほかない状態ですな。ライヴァルを蹴落とす術策とか、せいぜいポリティシャンとしての活動はあっても、ステイツマンとしては何もしていない。これでどうして国が成り立っているのか不思議である。
 『望月の虧たる事も無しと思へば』なんてうたっていても、屋敷には盗賊がはいるわ家事にはなるわ。街には暴力があふれ、疫病が蔓延している。これでそんな風にうたえるというのは、存外ちいさな望みしかなかったんでないんですかね。ついでにいえば、“欠けたること”なんて勝手に書き換えちゃいかんでしょ。『おろかな漢字制限』なんていうなら抵抗してほしかった。もっとも、“虧たる事”という表記も小右記に由来するようであり、うたを耳できいた実資が漢字をあてたのかもしれないが、なにがどうあれ“欠けたること”にはならないはずである。