「マレー鉄道の謎」(有栖川有栖)

 そこそこ楽しめるが、密室トリックも凡庸だし探偵も面白くない。この作品に限らず、この作家の小説はどれもこう、突出したところがないのですね。悪についての議論があるが、どうせなら哲学的に暴走してしまえばいいのに、そうもならない。それならもっとエンタテインメントに徹したほうがいいのではないか。
 明確にどこがどう、と指摘できないけれどこの作家には胡散くさいところがある。というのがこの作品における発見でしょうか。キャラクタづくりやストーリーにそれがほの見えるのだが、いまだそれが何かはわからない。人間に対する非常に冷酷な見方をしているのを、きれいごとで糊塗しているようなそんな感じ(うちのATOKは糊塗を変換しない!)。その人間観が問題なのではなく、うわべをとりつくろっているところが胡散くさい。ヴォネガットのいやったらしさとはまたちょっと違うような、うーんよくわからん。