「ドストエフスキー 父殺しの文学(下)」(亀山郁夫)

 アノミー、犯罪の増加、幼児虐待と、ドストエフスキーのロシアはまるで現代日本のようでもありますが、さらに頻発するテロが加わわって、とんでもない時代ですな。とんでもない環境に生き、しかもとんでもない人生をおくれば、それはとんでもない作品も書けるのかもしれません。
 下巻はおもに、「悪霊」「未成年」、そしてとりわけ「カラマーゾフの兄弟」の緻密な分析が展開されます。江川卓の「謎とき」シリーズは「悪霊」「未成年」をあつかわなかったのでそのへんを期待したのですが、むしろ「カラマーゾフ」の部分が面白かった。“父殺し”がライトモチーフになっているという説、たしかに説得力はありますが。が、それで作品がより面白くなるというわけでもないような。やはり私にとっては作者がどう考えていたかなんてあまりどうでもいいのです。アリョーシャやイワンがなにを考えていたか、ならともかく。