支倉凍砂「狼と香辛料」

 異世界なのに異世界つぽくない。ただの中世ヨーロッパ。教會とか修道院も、そのままキリスト教のそれである。ならヨーロッパを舞臺にしておけばいいぢやん。なんなら架空の小國とかでもよい。
 なぜ異世界だとダメで架空の小國ならいいのかと問はれると返答に窮する。オッカムの剃刀ではないが、この物語のためにでつちあげるには異世界はでかすぎるといふか。ともかく異世界をつくるなら、ちやんと異世界してゐてほしいのですよ。
 それから、ロレンスの教養が深すぎる。一介の行商人が國家の政治や經濟を、ああまで明快に理論的に筋道をたてて把握できるものだらうか。なんとなく感覺的にわかるつてんならともかく。
 といふことで、これはつまるところヒロインのことばづかひがキモの小説である。それでわるいことはない。が、あのことばづかひは何なのだらう。はじめは廓ことばかと思つたが、さうでもないのか。といふか、そもそも廓ことばとは何に由來するのだらう。ゼロからつくりだしたわけでもなからうし。わからん。
 結論。女性キャラのことばづかひが根幹であるといふ意味において、この小説は本質的に「侵略!イカ娘」と同類なのである。

狼と香辛料 (電撃文庫)

狼と香辛料 (電撃文庫)