お呼びだ、ジーヴス

 ジーヴスものの魅力はなにかといへば、バートラム・ウースター氏の饒舌である。ゆゑにバーティ不在で語りが三人稱のこの作品には讀むまへから不安を感じてゐた。「名状しがたい予感に胸押しつぶされて」ゐたと申すべきか。が、讀んでしまへばけつこうたのしめた。バーティがゐなくても(ゐたはうがいいけども)地の文がやはり心地よく饒舌であつた。それよりもジーヴスの知略にいつも冴えがないことが氣にかかつたが、それも譯者のあとがきを讀んで解決した。これはガイ・ボルトンとの共同作品の戲曲を小説化したものだつたのだ。
 それはさうと、「親密なミュージカル・コメディ」てなどんなミュージカル・コメディなんですかね。