音の手がかり

 主人公を活躍させるために警察をボンクラにするのは、レストレードやグレグスンの昔からの常套手段である。が、この小説はやりすぎではないのか。警察のやりかたを批判して能書をたれる主人公の知識の由來はといへば、映畫なのだ。
 これはイタい。彼は主人公であるからして、彼のかんがへはおおむね正解である。しかし客觀的に見ればひどくイタい。どうすればよいかと考へた。主人公を警察官にするのは無理。民間のネゴシエイターにしても、彼の専門知識との齟齬が生ずる。となれば何らかの理由で警察を呼べないことにでもするほかないでせうかね。警察の搜査が必要な部分もあるので、これもダメかな。
 ラストのあたりは讀めるのだが、前半のコンセプトとの整合性はまるでないのであつた。

音の手がかり (新潮文庫)

音の手がかり (新潮文庫)