製材所の秘密

 前半に出てくるランチの名前が「つばめ号」といふ。これはたうとう改譯されて少年文庫いりした「ツバメ号とアマゾン号」を私がまさに讀まんとしてゐる現在、奇妙な暗合といはねばならぬ。
 フレンチ警部ではない刑事は大事件にあたり、解決したら昇進できるかもと期待する。こんな風なのがクロフツのほかの刑事でもあつた氣がする。刑事も小市民なのですよとでもいひたいのだらうか。
 だが小市民刑事はやりたい放題でもある。令状もなく家宅搜索し、許可もえず盗聽し、指紋をだまし取る。この時代の警察は樂だねえ。
 ジュリアン・シモンズはクロフツのなかから一册といふことでコレをえらんださうだが、それほどの作とも思はれぬ。

製材所の秘密 (創元推理文庫)

製材所の秘密 (創元推理文庫)