津本陽「孤塁の名人 合気を極めた男・佐川幸義」

 「黄金の天馬」も「鬼の冠」も讀んだのだから、こいつもかたづけねばなるまい。でも小説としての出來はかんばしくない。引用がやたらあるのには目をつぶるとしても、重複が多すぎる。そもそも小説といふより小説よりの評傳といふところか。
 大東流は結局、武田惣角がつくつたのだといふ説がでてくる。さうだとすれば合氣なるシロモノは歴史上、武田惣角と佐川幸義だけが身につけた技術てことになつてしまふ。
 それは武術としてどうなんだらう。習つた人間のほとんどすべてが體得できない武術は、いくらすぐれてゐてもダメなんぢやないのか。
 なんてことを考へながら讀んでたら、最後に弟子のひとりが合氣の片鱗を會得したらしいことがわかる。ほんたうならすごいなあ。

孤塁の名人―合気を極めた男・佐川幸義

孤塁の名人―合気を極めた男・佐川幸義