有川浩「図書館戦争」

 これは、軍隊を舞臺にした「あしながおじさん」である。いや、そのつづきの「親愛なる敵」のはうだつたかな? 「高慢と偏見」とまでいふのは擴大解釋がすぎるだらうか。おもしろさにおいては、「高慢と偏見」はもちろんのこと、ウェブスターの二作にもおよばぬ、と申さねばならないけれど。
 ところで「フィールド・オブ・ドリームス」といふ映畫の内容を、私はほとんど忘れてしまつた。ただ、印象的なシーンがひとつだけある。本筋とはほとんど關係がないのだが、コミュニティのあつまりに主人公夫妻が出席するところである。
 そこではある小説を禁書すべきであるといふ議論がされてゐた。すると主人公の夫人がにはかに怒りだし、立ちあがつて激烈な演説をはじめるのですね。あひてをナチ呼ばはりしたりして。聽衆は熱狂し、つひに禁書さわぎは終熄する。あれは美しいシーンといつてもよかつたと思ふ。
 何をいひたいかといふと、ファシストどもにドンパチで勝つてもあまりカタルシスは得られないてことなのです。ブラッドベリみたいに陰氣にやるのもどうかと思ひますけど。

図書館戦争

図書館戦争