「スターヴェルの悲劇」(F・W・クロフツ)

 ふしぎなおもしろさに惹かれてもう一冊。クイクイ読ませるようなストーリーテリングがあるわけでもないのに、なぜだか読めてしまう。ある種のライトノヴェルといってもいいかもしれない。読者の心にフィードバックされるところが極度にすくないためか、とも思う。探偵をふくめて登場人物はあくまで事件を構成する要素にすぎず、読者の実存とはなんのかかわりもない。
 また、ストーリーが鈍重とおもわれるようだが、じつは一直線にすすんでゆくのも読みやすさとつながっているのか。フレンチの捜査は渋滞しているようでまったくしてない。ストーリーはさがす→みつける、さがす→みつけるのくりかえしだけで構成されている。それはべつにおもしろさとは直結しない、というか平板なものにしていると思うけれど、とにかくさっと読めるわけです。まあ、ふしぎなおもしろさの原因についてはなにひとつわからないけど。
 じつは、フレンチは“要素”ではなくなる瞬間があり、彼はやたらと昇進を気にするんですね。上司がいいところを見せるとくさったりする。こんな探偵は見たことがないし、物語においてなにか意図した効果をあたえているようにも思われない。ここはクロフツの地がでちゃっているのではないか。それから、「マギル卿」についてミスディレクションがへただと書いたけれど、この作品ではそんなこともありませんでしたな。「製材所の秘密」ももっているけれど、三冊連続はやめておこうと思う次第。