「アラビアン・ナイト(10)」

 この巻も短篇が多い。やはりある程度ヴォリュームがないと面白い物語にはならない気がしますね。お説教くさいのもダメ。
 アディー・ブヌ・ザイドとアン・ヌウマーン王の娘ヒンドとの話。面白いわけではないのですが、展開がまったく意味不明かつ理解不能。それがかえって謎めいた魅力になっていなくもない。
 美男と美女との優劣についてある女流学者が論争した話。男色と女色とどっちがいいか論争している。こういう莫迦げているのは好き。こういう話や、ベッドシーンや獣姦のでてくる話をシャハラザードはどんな顔して話したのか、なんてしょうもないことを考えたりもします。
 二人の女とその恋人たちとの話。こちらは女性の恋人として、壮年の男と少年とどっちがいいか、という話。
 カイロの商人アリーの物語。この巻では長いほうの話。魔物がでてきたりして楽しい部分もあるけれど、どうにも冗長でいけません。
 女奴隷タワッドゥドの物語。かなりの長篇。これまでもスーパー女奴隷がいろいろ出てきましたが、このヒロインは学者と論争してばったばったとたおしてゆく。おまけに音楽や将棋もうまいのである。延々と教義問答がつづく話で物語として面白いとはいえないですが、こういう過剰さをそなえた話は好き。文無しになった主人のために自分をカリフに売り込むヒロインは自らの学識伎芸をほこり、「約言いたしますと、あたくしは確実な根拠のある知識を持ったものでなければ覚り得ない境地に到達しておるのでございます」とまで言う。かっこいい! みごとカリフに自分を高額で売りつけたあと、なにか希望があるかと訊かれて主人のもとにもどしてくれと頼み、無事に元のさやにおさまるのであった。