「ダンテ・クラブ」(マシュー・パール)

 オビに「ダン・ブラウン、脱帽!」などとある。読んでいるさなかには、そりゃ「ダ・ヴィンチ・コード」なんかよりはこの作品のがいくぶんかマシだし、そう言うだろうと思いました。けれど読み終わったいま考えるに、「ダ・ヴィンチ・コード」のほうがマシです。
 この所へんてこミステリ、というかミステリもどきをよく読むので読んでみたわけですが、南北戦争がおわったばかりのボストンを舞台にロングフェローらダンテ翻訳者たちを主役としたミステリとなれば、多少は期待もしましょう。
 が、全然ダメ。この作家に推理小説のスキルがあるとは思えない。探偵たちは無能で右往左往しているだけだし、ヒントのだしかたがなってないし、犯人の造形もつまらないし、見立て殺人が物語の中でどう機能するのか理解できてないし、そもそもミステリもどきとすら言えないのではないか?(ネタバレぎみになりますが、私が勝手に本格ミステリ風味を追い求めてるだけで、実態はただのサイコスリラーなのかも) 
 評価できるポイントがあるとすれば、犯人の名前と、ヒーリー判事の殺害方法でしょうか。あんな残酷な殺害はいままで読んだことがない。いずれにしろ「神曲」をモチーフとした作品としては「神曲法廷」の足下にもおよばないと言えます。
 それからアガシの名前は通例、ルイスではなくルイと表記されるのでは? 手元の人名辞典でもそうなってますが。