「グノーシス」(筒井賢治)

 オビに『日本人研究者による待望の入門書、登場!』と仰々しく大書してある。でもまあ、そんな感じであるのは事実で、メチエはなかなかかゆいところに手がとどく選書であるね。グノーシス思想一般ではなく、キリスト教グノーシスにかぎってあるのはちょっと残念だけれど、おもしろかったのでよし。なにより、プトレマイオスの神話、バシレイデースのコスモロジー、マルキオンの思想そのものがおもしろく、読んでたのしいのであります。この世界を悪い、離脱すべきものとしてとらえる思想は、根本的にまちがっているところがあるとは思うが(「草枕」がダメだと思うのもそこ)、魅力的であることもたしかなのです。しかつめらしく書いているようで、ユーモアをそこはかとなくただよわせる文章も好き。