「谷崎潤一郎随筆集」(篠田一士編)

 谷崎がいっている内容よりも、谷崎の文章そのものが読みたいのにかなづかいを変えてしまっては話にならぬ。などと愚痴をいうなら岩波文庫なぞを読まなければいいのですがね。「いわゆる痴呆の芸術について」での義太夫の不合理を事細かにねちねちとケチをつけるいやらしさがおもしろい。「懶惰の説」(“らんだ”を変換しないし、谷崎がただしいとする字もみつからぬ)の“東洋的懶惰”には心ひかれますね。なにしろなまけものなもので。「陰翳礼讃」も部分的にはわかるのだけれど、東洋人が陰翳を愛好し讃仰する(“さんぎょう”を変換しない)理由が西洋人のように肌が白くないからだというのは首肯しかねます。