「怪帝ナポレオンIII世―第二帝政全史」(鹿島茂)

 というわけで読了。ナポレオン三世はわたくしが思っていたすっとこどっこいでも、マルクスがいうような詐欺師・山師のたぐいでもない、らしい。『第二帝政がなければ、果たして、フランスが近代国家の仲間入りできたかさえ疑わしいというのが、歴史家の間で定説になりつつある』のだそうですよ。
 議会をつぶし皇帝にまでなった男が、いっぽうで貧困の撲滅を真剣に実現しようとしていたというのは理解しづらい。まるで矛盾の権化といったあんばいですな。ナポレオン三世が議会の権限を拡大したとき、議会は、マスメディアは、国民は愚劣な戦争へとつきすすんだけれど、ナポレオン三世は戦争には反対であったという皮肉。ナポレオンが大統領になったのも、帝政に移行したことも、国民に圧倒的に支持されていたということも考えあわせると、民主主義とはいったいなんなのか考えてしまう。
 ともあれ、ナポレオン三世が賢帝であったというわけではないにせよ、皆にわるくいわれていた人物が実はそうでもなかったのだ、という展開はおもしろい。「時の娘」的おもしろさと申しましょうか。