「邪魅の雫」(京極夏彦)

 出来はまあまあ、というところでしょうか。終盤はとめられず一気に読み、そのおかげで睡眠不足である。そのへんのパワーはさすがだ。
 さて、今回の登場人物はこまったひとが多く、関口君がまともに思えるほどである。いれかわりたちかわりにそういう人、つまり莫迦が出てきて、物語は重苦しく、鬱屈して、倦怠感があふれてくる。それを粉砕するのが榎木津であるのが通例なのに、わけあって元気がなく、そのため爽快感がない。これが今作の一番の特徴といえましょうか。
 犯人はまあ、かなり早くにわかる。これはわかるように書いているというか、わからないようには書いてないせいであろう。わからなかったら、ちょっと腹が立つかもしれない。それほど、犯人の行動は不合理である。
 例によって、前作までの登場人物がぞろぞろと現れるが、おぼえてないキャラも多い。とくに大鷹とはいったい、だれだっけ? こういう手法をとるならせめて、もっとコンスタントに作品を発表してほしい。
 次作タイトルは「空鳥の碑」なのかな。‘空鳥’で一文字なんだけど、文字コードに変換できないと出る。それと章のはじめの行(たいてい一文字目)にかならず、‘殺’、‘死’、‘亡’という字があるのは、なにかのまじないなんだろうか。