「日本探偵小説全集2 江戸川乱歩」(江戸川乱歩)

 たとえば「心理試験」にしても、明智の謎解きなどさしておもしろくないのに、ラスコーリニコフめいた犯人による犯行の過程は熱心に描かれていておもしろい。要するにミステリ、すくなくとも本格ミステリに不向きなのであって、ミステリであることを抛棄したような「鏡地獄」や「人間椅子」のほうに精彩がある。こんな作家が一方で海外ミステリのすぐれた紹介者であったのもふしぎなはなしである。
 てなことを考えていたら、「陰獣」で自分のことを『犯人の残虐な心理を思うさま描かないでは満足しないような作家』といい、自註自解でも、『長篇構想の下手な私』だの、『トリックにはほとんど創意がなく、犯罪動機には新味があったけれども、万人を納得させる必然性に乏しく』といったことばがならんでいた。つまり自分でもわかってしまっていたわけですね。おそるべき知性ではあるにしても、それはそれで不幸なことだと思うのでした。