「吸血鬼ドラキュラ」(ブラム・ストーカー)

 1897年の作品だが古くさいところはない。しいて言えば日記と書翰のみで構成されている形式に時代を感じるかな。恐怖小説としておもしろいというよりも、後半の裏のかきあい、頭脳戦がたのしい。
 ヴァン・ヘルシング教授は思っていたイメージとはちがった。といっても、そもそも私はドラキュラ映画を観たこともないのですが。厳格な科学者みたいなキャラかと思えばギデオン・フェル博士のようであった。が、有能とはいいがたく、目の前で進行していることに気づかないし、日記の情報を綜合して光明をみつけるのも教授ではないのである。
 ドラキュラが英国に根拠地をおくため、弁理士をやとう。弁理士の婚約者の友人ルーシーはドラキュラの犠牲者となる。ルーシーの求婚者のひとりはヴァン・ヘルシングの弟子であり、なおかつ彼の病院の隣家がまさにドラキュラのアジトである、というのはあまりに偶然がかさなりすぎてはいないか。そのおかげでかなりのヴォリュームがあるこの小説だが、登場人物はすくなくなってもいる。