「ミステリ・オペラ 宿命城殺人事件(上)」(山田正紀)

 以前は「魔笛」はどうも好かなかった。ストーリーがどうこうというより、ドイツ語がいけません。あれはどうもオペラではない、なんて思っていたのだけれど、「反音楽史」でやけに力をいれて紹介されているのを読んで聴きなおすと、こんどは毎日のように聴くほど好きになってしまった。そういうときにこの作品にでくわしたのも奇妙な偶然である。
 錯綜した叙述にどうも入りこめず弱った。黙がでてきてようやくノれたが、それまで長すぎです。黙は探偵としては類型的だが(矢吹駆みたい)、こんなキャラは何人いてもいい。それよりも語り手が気に入らぬ。親切にされているというのに他人の言動にやたらをアラをさがし、悪意を感じている。いや、たぶん語りの感覚がただしいのだろうが、すなおにダマされるほうが探偵小説の語り手、すなわちワトスン役としてはふさわしいではないですか。
 今は下巻の冒頭を読んでいるのだが、パパゲーノのあつかいが小さいのが気になる。パパゲーノこそ「魔笛」の主人公でしょうに。