「ザッヘル=マゾッホの世界」(種村季弘)

 ザッヘル=マゾッホにも、マゾヒズムにも関心はないのに読んだのは、「謎のカスパール・ハウザー」「山師カリオストロの大冒険」「ビンゲンのヒルデガルトの世界」「パラケルススの世界」といった種村さんの評伝がおもしろかったからである。それにしても、カスパール・ハウザーやカリオストロにも書名に“世界”をつけるべきだよなあ。
 読んでわかったのは、マゾッホマゾッホではなくてザッヘル=マゾッホであるということ。この二重姓っていうんですか、これがそもそもよくわからないですな。ロートレックロートレックでなくてトゥールーズロートレックだったのもあれでしたが。そもそも二つの姓をつなぐ‘=’がよくわからない。本で見るとイコールより幅がせまいようにも見えるし、横文字だとSacher-Masochとただのハイフンみたいですがね。
 あとは、かくも“さるにても”とか“さなきだに”なんて言葉が頻出する文章もめづらしいってことでしょうか。内容とまるで関係ないですか。いや、ふつうにおもしろかったです。「ロシアの民衆は、ひょっとするとその至上の女主人との取って置きの甘い戯れのために、スターリン官僚制というウォトカ並みに強烈な超ギリシア人を自家のサロンに誘い込んでわななくような快感に打ち震えていたのではなかろうか」なんてとてつもないコトバもあるし。