「フーコーの振り子(上)」(ウンベルト・エーコ)

 「薔薇の名前」はさほど面白いとは思わなかった。過剰な装飾はあるものの、けっきょくはミステリであり、そのミステリとして大した出来ではないから。でも、コレよりはかなりマシですな。
 テンプル騎士団だの、カバラだの、なんとか大佐の長広舌には辟易したが、その後も登場人物がかわるがわる電波をとばしてくる。こりゃいったいなんなのか。エーコがそれらを真にうけているのでないのはわかるが、ではと学会のようにからかいたかったのか。そのためにこんな長い小説を書いたのかいな。とにかく、読み物として楽しくない。
 『知識を調査する探偵事務所』ってのはちょっと面白かった。「コンピューターとミス・ワトソン」でキャサリン・ヘプバーンが新聞社で同じようなことをしていた。「サンタクロースのトナカイの名前は?」みたいなのを調べていたが、ああいう仕事はやってみたいと思ったもんです。が、いまは誰でもウェブで検索すればたいていのことはわかっちゃうから無理ですね。
 国立科学博物館フーコーの振り子を見たことは何度もあるけれど、べつになんとも思わなかった。そんなたいしたものですかね。訳文にはかなりひっかかる部分があったが、原文自体にクセが多そうな感じだからしかたないのかもしれない。