読書

デズモンド・バグリイ「敵」

フィリップ・マーロウがつかふ一人稱は何であるべきか、てな議論がありますな。清水俊二のマーロウは上品すぎるとかなんとか。そんなことを思ひだしたのは、この小説の語り手の一人稱が「おれ」だつたからである。 これがどうも違和を感じてならぬ。最後まで…

増田義郎「物語 ラテン・アメリカの歴史」

ラテン・アメリカてなちとばかり大風呂敷であつたのではないかな。 中米とカリブ海諸國と南米をわけるだけでなく、南米でもブラジルとそれ以外にわけでもよかつたと思ふ。 「物語」性を意識してるのには好感をもつたが。物語ラテン・アメリカの歴史―未来の大…

G・K・チェスタトン「知りすぎた男 ホーン・フィッシャーの事件簿」

當然のことながら、ヒッチコックの「知りすぎていた男」とは何の關係もない。だけど、あの映畫の「知りすぎていた男」てな誰のことなのだらう。ふつうにかんがへれば最初に死んだ男でせうが、はじまつてすぐに死んでしまふ人物をタイトルにつかふのが解せな…

落合淳思「甲骨文字の読み方」

私は篆書がすきなのだけれど、甲骨文字がこんなにプリティでチャーミングだとは思ひませんでしたよ。 動物などを象形する文字もかはいいけれど、もうすこし記號性を増したやつが好き。 卷末の甲骨文字字典もけつこうなものです。甲骨文字の読み方 (講談社現…

楊進、雨宮隆太、橋逸郎「太極拳と呼吸の科学」

どうも、プロパガンダ臭を感じてしまふ。 太極拳のメリットをいろいろ訴へてゐるが、べつに太極拳でなくてもかまはぬことが多い。 といふか、太極拳ならではなのはゆつくりと動くことだけではないのか。 それに太極拳經をむやみにありがたがるのも氣になる。…

笠尾恭二「新版 少林拳血闘録」

「太極拳血戦譜」がおもしろかつたので讀んでみたが、私はさほど少林拳には興味がない。したがつて少林拳についても、少林寺につたはる拳法の總稱くらゐにしか認識してをりません。 それがこの本を讀んだらますますわからなくなつた。 だつて、八極拳や蟷螂…

田中美知太郎「ソフィスト」

まづ、「まえがき」の「固有名詞の呼び方をできるだけ世上の慣用に近づけたのと、ギリシア原語の使用を最小限度に止めたのを除いては、べつに通俗的ということを考えなかったが、著者はいかなる場合にも、普通の思考力をもつ人ならだれでも従うことのできる…

大貫隆「グノーシス「妬み」の政治学」

「妬み」を「そねみ」と讀んでゐたことから告白せねばならぬ。 初手からつまづいた恰好ですな。 「ねたみ」だと知つたところで簡單にアタマがきりかはるわけもなく、「そねみ」と讀んではああ「ねたみ」だつたと思ふことをくりかへして最後まできてしまつた…

山田英司「武術の構造 もしくは太極拳を実際に使うために」

中國武術や古武術、合氣道などが実戰で、といふか近代挌鬪技とたたかつても勝てないのはなぜか。 その理由を説明する前半の理論篇がおもしろい。無論、文弱の徒である私に、いや文のはうもアレですからただの弱徒か、その是非がわかるはずもないのだが、とに…

二階堂黎人「鬼蟻村マジック」

蘭子ものには絶望したのでもつとサトルものを書いてもらいたいと思つてゐたところであつた。 メインのトリックはでてくるなり、おほまかにではあるがわかつたしまつた。トリックそのものの問題なのか、ミスディレクションがいまいちなのか。 それはまあしか…

半藤一利「昭和史 1926-1945」

形態、規模がどうあれ、組織がうまくはたらかないさまは見てゐてつらい。 たとへば監督がアホなせゐで野球ティームががたがたになつるだけでもさうである。 それが戰爭ともなればたいへんなことで、私はプロイセンにもフランスにもとくべつな思ひいれはない…

鈴木忠、森山和道「クマムシを飼うには 博物学から始めるクマムシ研究」

日本の科學者やサイエンスライターには、文系のセンスがたりないと思ふ。 そんなもんが研究にいるかどうかはしらないが、一般向けの讀みものを書くときには重要だと考へる。余分にみえて必要なうるほひが文章にたりなくなるのだなあ。 などとふだんから感じ…

奥野卓司「ジャパンクールと江戸文化」

昔むかし歌舞伎についての本を讀んだことがあつた。そのとき判明したのは、歌舞伎がジャンプのマンガに似てゐること。ケバい衣裳、とんがつたキャラクタ、どぎついストーリー、あくどい演出、なんと似てゐることか。 日本文化はおたくの文化なのではあるまい…

支倉凍砂「狼と香辛料」

異世界なのに異世界つぽくない。ただの中世ヨーロッパ。教會とか修道院も、そのままキリスト教のそれである。ならヨーロッパを舞臺にしておけばいいぢやん。なんなら架空の小國とかでもよい。 なぜ異世界だとダメで架空の小國ならいいのかと問はれると返答に…

笹原宏之「訓読みのはなし 漢字文化圏の中の日本語」

著者略歴に、JIS漢字や常用漢字の制定・改正にたづさはるとあるのを讀んで不安になつた。これつてアホの同義語ではないのか。 が、中味は常識的なものであつた。さまざまな字についてのトピックが雜然とならんでるだけで芯がないのでものたりない。さういふ…

池内了「疑似科学入門」

新書といふかたちでかうした本が出ることの意義までは否定しないけれども、おもしろいとはいひがたい。 参考文獻にもあるガードナーやハインズの本は個別の例がたくさんあつたのに、抽象的な一般論に終始してゐて讀みものとしてのうるほひがありません。すで…

「象は世界最大の昆虫である ガレッティ先生失言録」

ガレッティは1750年うまれのドイツのギムナジウムの先生。このひとがタイトルにあるやうな失言をやたらとしたのださうで、生徒がそれをまとめて本にした。それがいまにつたはり、「ガレッティ」は失言の同義語になつたとか。 見てゆくと、どうも單なる失言ば…

司馬遷「史記1 本紀」

本紀といふのは歴代王朝の王たちとその周囲におこつたことを時系列にしるしてゆくものであるが、これがつまらない。年表を讀んでるみたいな。 んー、でも私は年表をダラダラながめるのは好きなのだな。王と關係のないことが書いてないからわかりづらいためか…