福家警部補の挨拶
 倒叙ものがあまり好きではない。ドストエフスキーのほかの作品とくらべて「罪と罰」が氣にいらないのは倒叙ものだからではないかと考へたりもする。なぜだかわからぬ。 ところが「刑事コロンボ」は好きである。テレビドラマとしてはミステリ水準の高いシナリオのためでもあらうが、要するにコロンボの愛嬌がキモのやうに思はれる。
 ひるがへつて本作の主人公をみるに、コロンボの愛嬌に比すべき魅力がない。そこがどうにも弱い。ただ、主人公が犯人でないひとに聞き込みに行つて、その人物にふしぎな影響をあたへるシーンはなかなかよい。

 

福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)

福家警部補の挨拶 (創元推理文庫)