「死の相続」(セオドア・ロスコー)

 オビの文句は『密室ミステリの歴史に燦然と輝く、おそるべき怪作』そして『カーの大仕掛け、そしてクリスティのサスペンス』ときた。もう森英俊さんにはさんざんおどらされてきたから、真に受けることはないがそんなたいした作品ではない。やはり森さんのことばでパルプ小説っぽいというのがあったが、B級サスペンスのテイストがありますな。容疑者は怪人ばかり(ミスディレクションになっているが)、むだに活劇調だったりするわゾンビはあらわれるわ。そのためかどうか、ミステリとしては拙劣な部分も多い。不可能状況はとんでもないのだが、それをうまく整理してないからわかりづらい。「これこれするためにはこうでなくてはならない」「だがそれは不可能である」といったふうな分析がほしいのに、つぎからつぎへと殺人がおきてしまってわけがわからない。トリックもうまく生きてこないというものです。どうにもならないような危機的状況が終盤ぎりぎりまでつづき、けりがつかないのではないかと思ったところへ一気にかたをつける、その荒業は評価すべきでありましょうか。
 あと、主人公が莫迦すぎる。わたくしが主人公というものに賢明さをもとめすぎるのかもしれない。主人公が愚かでいらいらする小説にしばしば逢着するのはそのためなのか。いづれにせよ、こうした事態におちいるためには粗忽であることが必要なのであって、賢い人間は殺人事件などにかかわらないものなのかもね。