「アラビアン・ナイト(8)」

 間をあけずに読めました。なにしろ一巻読了が1994年6月ですからね。へたすると生きているうちに読み通せないと思われだしましたよ。この巻のおわりで第334夜だが、読むのにずっと時間がかかっている。
 さて、七巻は長い話がふたつ(と挿話がひとつ)しかなかったのに対して、この巻は短い話がたくさんという構成になっています。お説教くさい話もあるものの、面白い話もありました。
 アブドッラー・ブヌ・アビー・キラーバの物語。円柱の都イラムの幻想的な物語。もうちょいいじればダンセイニ風といってもおかしくなくなったかも。
 ペルシア人アリーの物語。いままで読んだなかではもっとも可笑しい話。ほら合戦が脈絡もなくはじまるところがいい。
 カリフ、ハールーン・アル・ラシードと女奴隷、そしてアブー・ユースフ大師の物語。法学者の痛快な悪智慧。へたすると三百代言だが、短いながら面白い。
 ものぐさのアブー・ムハンマドの話。労せずして金持ちになる話は好きだ(日本の昔話でいちばん好きなのは「わらしべ長者」である!)。こういうキャラに共感してしまうのは、私が骨の髄から懶惰である証左でありましょうか。残念なのは、このひとが途中で堕落して、働き者になってしまうことである。
 アリー・シャールとズムッルドとの物語。アラビアン・ナイトにでてくる主人公は軟弱なヤツが多く、すぐに失神したり泣きわめいたりするのだけれど、この主人公はその典型であり、そのうえにマヌケである。くらべてヒロインのかっこいいこと。学問伎芸に通じた女奴隷というのはよく出てきて、まるで吉原の太夫のようなのですが(もっとも、私の吉原の太夫に関する知識はもっぱら隆慶一郎の小説に由来しております)、このヒロインは加えて行動力と機転があり、悪者に誘拐されても自分で逃げてしまうし、スルターンにもなってしまうのである。このスルターンになってしまういきさつも傑作だが、砂糖飯の皿のくだりも面白い。マッサージさせるシーンはエロティックだし、アラビアン・ナイト最強のヒロインかもしれません。こんな女奴隷が市場で千ディナールで買えてしまう世界は、ものすごいよねえ。