「まほろ市の殺人 秋 闇雲A子と憂鬱刑事」(麻耶雄嵩)

 この競作の成立事情について何も説明がないのが不親切ですな。まほろ市の地図と沿革をわたされて、あなたは「秋」ねって頼まれただけなのか、きちっと相談したのか、さっぱり見えない。
 作品自体はみじかいながら本格してます。道具立ては奇妙だけれど、麻耶さんだしね。それに闇雲A子というネーミングと、主人公の奥さんが素敵なのとでもう十分でしょう。天城と曾我ってのはウルトラセブンですかね。
 ところで私もひとの目を見て話すのが苦手です。苦手というか、生理的に強い抵抗感があってできない。やりたがらないのでなくってできないのですね。なぜできないのかはわかりませんが(アスペルガー症候群の患者にそういう特性があると読んだことがあるかも)、そういう機微がわからないひとが多いのは困りものです。不可能事を義務づけるのは道徳的にあやまっておる。てわけで、目を見て話すことを強要する徒輩を私は軽蔑しております。セイヤーズの探偵に、ひとの目を見て話すやつは信用ならぬというようなセリフがあり、さすがセイヤーズはひと味ちがうと思ったことでありました。