「九人と死で十人だ」(カーター・ディクスン)

 中盤、かなり直截な言いようで犯人を明かしているにもかかわらず、惑わされましたよ。驚くべきミスディレクション、というのか。大満足の一作とはいかずともなかなかの佳作でありました。ただ、真相に気づいたのに対応が遅くて一人死なせ、あまつさえ自分もケガをしたのはH・Mに似合わぬ不手際ですな。
 カーの小説の主人公はしばしばとんでもない愚行をしでかすのだけれど、今回はヒロインのほうが莫迦であり、そのへんが新機軸と言えましょう。